たまにライトノベル

『りゅうおうのおしごと!』 才人と凡人と夢

 

玄関を開けると、JSがいた――
「やくそくどおり、弟子にしてもらいにきました!」
16歳にして将棋界の最強タイトル保持者『竜王』となった九頭竜八一の自宅に
押しかけてきたのは、小学三年生の雛鶴あい。きゅうさい。
「え? ……弟子? え?」
「……おぼえてません?」
憶えてなかったが始まってしまったJSとの同居生活。ストレートなあいの情熱に、
八一も失いかけていた熱いモノを取り戻していく――

 

 

このライトノベルがすごい!二連覇、アニメ化も果たしたりゅうおうのおしごと!の三巻と五巻についてちょっと書く。

 

 

この作品の大きなテーマとして天才だの凡人だの夢だのがあるわけだが、それらに対して大きく切り込んだのが三巻というわけである。この手の作品には欠かせないテーマではある。三巻でのメインキャラは清滝桂香であり、彼女は凡人側の人間だ。

生石飛鳥、山刀伐尽も凡人側の人間である。勿論凡人としてののグラデーションはある生石飛鳥からみれば清滝桂香は才人であるし、清滝桂香からみれば山刀伐尽は才人だっていう、そういうこと。

なら、三巻における天才側の人間は誰なのかと言うともちろん九頭竜八一と雛鶴あいの二人であり、三巻では天才側と凡人側の天才VS凡人という構図になっている。

 

姉弟子についてはまぁ、ここではあんまり触れません。

 

まず、山刀伐尽と九頭竜八一の対局の凄さについて、この対局何がすごいって、八一君はこの対局まで、読者からすれば天才だっていう認識があんまりなかったてことなんですよ。16歳で竜王なんて普通どうかんがえても天才としか思えないはずなんですけど、本人の自己評価の低さ、そして他者評価の高さ、さらにスランプに陥っていたこともあって周りからの評価は高くてもいまいち天才にはみえなかったんですよね。まぁあとは、単純に一巻での歩夢戦や二巻での月光会長戦での見せ場でも快勝というわけではなかったってところもあるのかなと。。

 

で、これの何がすごいっていうと、要するにタメですよね。タメてタメて爆発。

九頭竜八一はこんだけの天才なんだぞ!っていうのを、一巻でも二巻でもなく、才人と凡人と夢っていうテーマがメインの三巻で歩夢や月光会長という天才たちではなく、山刀伐尽という凡人側の人間との対局でやってくるっていうのがえぐすぎる。

これによって凡人側と天才側の両側のキャラが一気に光り輝くんですよね。なんていうかお互いがお互いを高めあってるみたいなそんな感じ。。

 

ちょっと話が逸れるけど、この対局の最後の山刀伐さん死ぬほどかっこいいんですよね

対局後にどうしても自分の気持ちを抑えられなくて八一君に強く当たってしまうんだけど、あれはいっちゃうよなぁと、ちょろっと努力しただけの人間に自分の今までの努力が踏みにじられるって耐え難いでしょう。ましてや自他ともに努力の人間だと思ってるのに、その努力を一瞬で才能によって追い越されるのは相当きつい。

でもそれでもそんなきつい状況でもすぐに、自らに驕りがあったと認めて「負けました。……ありがとう」といえる山刀伐さんかっこよすぎるんだよなぁ。。。

どうでもいい話だけどアニメだと八一君に強く当たる場面がないんですよね。。。。。。。。。。

 

 

次は桂香さんの話します。

まぁこの人三巻ではメインの人であり、りゅうおうのおしごと!の五巻までの話だと凡人代表の主人公みたいなもんで、死ぬほど泣かされました。

三巻だと結構きつい描写があって、特に好きなのが同窓会での話と姉弟子に土下座して先生っていう場所が本当に好きで、あそこのいたたまれなさ尋常じゃない。

 

どうしてこうなってしまったんだろう?

汚れてしまった我が身を振り返り、夢と現実の余りの乖離に、私は苦笑いすら浮かべていた。

こんな自分になりたいなんて夢見たことは、一度だってありはしないのに。

りゅうおうのおしごと!三巻p90

 

 あとは、努力の方向を間違えてたところも大好きであそこもやばい。努力してもダメだった。じゃなくて方向性を間違えてたってのがまた余計にきついんですよねぇ。。。

 

そんな桂香さんだけど、やっぱり三巻の最後天衣には勝つけど、あいには負けるんですよね。ぼくはこの敗北そりゃ負けるよなって思ったし、むしろ夢は叶わない方がきれいだとすら思った。だってここで勝っちゃたらご都合主義じゃん。現実の人間、物語ですら、努力すれば夢がかなう訳じゃないってのは知ってる。努力し続ければ夢は叶うなんて今日日きかないですよ。そんなこと。だからこそ、それでも僕は私は○○が好きなんだってのがぐっとくるわけじゃないですか。このりゅうおうのおしごと!の三巻なんかはまさにそういう話で、初めて読んだときはボロボロ涙こぼしながら読んだんですよ

文章ドーーーン!イラストどーーーーん!このシーンでは涙すら出なかった。感情がぼくを追い越していったので。。そのあと数ページ読んでとめどなく涙が溢れた

そんな最高の話しなわけだが、四巻ではまた、桂香さんの話が展開されるんですよね。正直四巻読んだときは意味が分からなかった。ぼくの中ではもうすでに終わった話だったんでそれ蒸し返してどうすんだよって気持ちがあった。だってあんなにきれいに終わってるんだから、スポットはあてないで、頑張ったけどダメでした。でももう気持ちの整理はついているので大丈夫です。ってそういう話でしょと。それだけの話なのにまたスポットあてても同じこと繰り返すだけだろとそういう風に思ってた。

 

結論から言わせてもらうとぼくが間違っていた。簡単な話桂香さんは夢をかなえた

努力し続ければ、諦めなければ夢は叶うなんて、今時小学生ですら信じない。なぜならそんなことは嘘だと知っているから。誰だって。

でもそれでも、信じたいと思っている人がいる。努力し続けている人がいる。

 

 

 『報われない努力はない。それを証明するために戦いました』

 

 この桂香さんのセリフは谷川浩司九段の手紙が元ネタらしいが、ぼくはこのセリフを読んだ瞬間涙が止まらなくなった。

いいんだって。凡人でも夢を叶えていいんだって。

このりゅうおうのおしごと!という作品では誰しもが夢を叶えているわけではない。

飛鳥ちゃんは女流棋士の夢を諦めたし、たぶんJS研のみんなが雛鶴あいに追いつくことはないだろう。その他にも挫折した人間、夢を諦めた人間この世界のキャラクター達はそんな人間を沢山見てきているとは思う。りゅうおうのおしごと!はそんなに優しい作品ではないし、現実の世界だってそうだろう。

 

でも、たとえ凡人だったとしても夢を叶えることがあったていいじゃん。夢は才人のものだけではない。凡人だってたまには叶えることがある。